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紅にしをれし袖も朽ち果てぬ
あらばや人に色も見すべき

歌の意味
紅の涙に濡れてしおれた袖も、すっかり朽ち果ててしまった。袖があったなら、あの人にこの色を見せもしようものを。
鑑賞
巻第十三 恋歌三 832

詞書は前の歌に続き「題しらず」
 紅に濡れしおれた袖も朽ち果ててしまった、あったならあの人に色を見せもしようものを、と詠む。恋の嘆きのあまり流した紅の血の涙で袖は朽ち果ててしまい、せめて涙の色に染まった袖を相手に見せて思いの深さを知らせたくても、その袖さえもう残っていないという、極まった恋の嘆きを表している。
 作者の「皇太后宮若水」は皇太后宮に仕えた女房である。経歴の詳細は多く伝わらない。
 本巻の第八百八首は嬉しさを包むべき袖が涙に朽ち果てたと詠み、本歌は思いを見せるべき袖が朽ち果てたと詠んで、ともに「朽ち果て」た袖を詠む点で対応する。

 初句「紅に」は、紅の血の涙に、の意である。恋の嘆きのあまり流す涙は紅に染まるとされた。
 二句「しをれし袖も」の「しをる」は濡れてぐったりする意で、紅の涙に濡れしおれた袖も、の意である。
 三句「朽ち果てぬ」の「ぬ」は完了の助動詞で、すっかり朽ち果ててしまった、の意である。ここで句切れとなる。本巻の第八百八首の結句「朽ち果てにけり」と同じく、涙で朽ちた袖を詠む。
 四句「あらばや人に」の「ば」は仮定、「や」は疑問の係助詞で、結句の「べき」と係り結びをなす。袖があったならあの人に、の意である。
 結句「色も見すべき」の「べき」は推量の助動詞「べし」の連体形で、「や」の結びとなる。涙の色も見せもしようものを、の意で、見せる袖さえないことを嘆く。

しをる:濡れてぐったりする
作者
若水
出典
千載和歌集
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あぢきなく言はで心を尽くすかな 包む人目も人のためかは
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