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禊せし賀茂の川波立ちかへり
はやく見し瀬に袖は濡れきや

歌の意味
禊をした賀茂川の波が立ち返るように、あなたもまた斎院のもとに立ち返って、かつて見た瀬で袖を濡らしたのではないか。
鑑賞
巻第十六 雑歌上 969

詞書「選子内親王に侍りける右近、後の斎院に参りて御禊の出だし車に乗ると聞きて、又の日遣はしける」
 選子内親王に仕えていた右近という女房が、後任の斎院に仕えて御禊の行列の出だし車に乗ると聞き、その翌日に送った歌である。禊をした賀茂川の波が立ち返るように、あなたも立ち返って、かつて見た瀬で袖を濡らしたのではないか、と詠む。かつて大斎院のもとでともに見た御禊を、新しい斎院のもとで再び見た右近の胸中を思いやり、昔を懐かしむ涙で袖が濡れたであろうと問いかけている。
 作者の「大斎院中将」は大斎院選子内親王に仕えた女房で、中将と呼ばれた。
 前歌の第九百六十八首が大斎院選子内親王の歌であるのに続き、その女房の歌が置かれている。

 初句「禊せし」は、禊をした、の意で、斎院が賀茂川で行う御禊を指す。
 二句「賀茂の川波」は、賀茂川の波である。御禊の場である賀茂川を詠み込んでいる。
 三句「立ちかへり」は、波が寄せ返る意と、再び元の場に戻る意を重ね、右近が再び斎院に仕えたことを表す。
 四句「はやく見し瀬に」の「はやく」は、以前に、昔に、の意で、川の早瀬の意を響かせる。「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、かつて見た瀬に、の意である。
 結句「袖は濡れきや」の「き」は過去の助動詞、「や」は疑問の係助詞で、袖は涙に濡れたか、の意である。

ごけい:斎院が賀茂祭の前に賀茂川で行う禊の儀
いだしぐるま:女房が袖口や裾を簾の下から出して飾り見せる牛車
はやく:以前にの意に、川の早瀬の意を響かせる
みそぎ:川などで身を清める神事
作者
大斎院中将
出典
千載和歌集
前の歌
相見むと思ひしことをたがふれば つらきかたにも定めつるかな
次の歌
ちはやぶる斎の宮の旅寝には あふひぞ草の枕なりけり