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秋を経て光をませと思ひしに
思はぬ月の影にもあるかな

歌の意味
秋を重ねるごとにいっそう光を増してほしいと思っていたのに、思いもよらない姿の月であることよ。
鑑賞
巻第十六 雑歌上 979

詞書「三条女御琮子遁世ののち、扇紙に月出だして遣はし侍るとて添へて侍りける」
 三条女御琮子が世を捨てて出家したのち、扇の紙に月を描いて贈る際に添えた歌である。秋を重ねて光を増してほしいと思っていたのに、思いもよらない月の姿であることよ、と詠む。女御として年ごとに栄えてほしいと願っていた人が出家してしまったことを、扇に描いた月の姿に重ねて嘆いている。
 作者の「権中納言実綱」は藤原実綱である。三条公教の子で、権中納言に至った。三条女御琮子とは兄弟にあたる。
 前歌の第九百七十八首が月を天皇にたとえたのに続き、本歌は月を女御にたとえている。なお原文の詞書では女御の名の一字が判読できない記号となっているが、三条女御は後白河天皇の女御藤原琮子とされるので、ここでは「琮子」とした。

 初句「秋を経て」は、秋を重ねるごとに、の意で、年月を経ることを月の美しい秋で表している。
 二句「光をませと」の「ませ」は「増す」の命令形で、光を増してほしいと、の意である。女御としての栄えを願う気持ちを表す。
 三句「思ひしに」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形、「に」は逆接の接続助詞で、思っていたのに、の意である。
 四句「思はぬ月の」は、思いもよらない月の、の意で、出家した女御をたとえる。三句の「思ひし」と対をなしている。
 結句「影にもあるかな」の「影」は月の姿、光の意で、「かな」は詠嘆の終助詞である。思いがけない姿であることよ、の意となる。

あふぎがみ:扇に張る紙
とんせい:俗世を逃れて出家すること
かげ:月の光、また月の姿
作者
藤原実綱
出典
千載和歌集
前の歌
人知れぬ大内山の山守は 木隠れてのみ月を見るかな
次の歌
訪ふ人に思ひよそへて見る月の 曇るは帰る心地こそすれ