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過ぎ来にし四十路の春の夢の世は
憂きより外の思ひ出でぞなき

歌の意味
過ぎてきた四十年の、春の夢のようにはかないこの世には、つらいこと以外の思い出は何もない。
鑑賞
巻第十六 雑歌上 1028

詞書「述懐の心を詠める」
 述懐の心を詠んだ歌である。過ぎてきた四十年の春の夢のような世には、つらいこと以外の思い出はない、と詠む。四十年の歳月を短くはかない春の夜の夢にたとえ、振り返ってもつらいことばかりで楽しい思い出は一つもないと、半生を顧みる嘆きを率直に表している。
 作者の「覚審法師」は平安時代後期の僧で、伝記の詳細は明らかでない。
 本巻の第九百八十七首が月を「憂き世の中の思ひ出で」と詠んだのに対し、本歌は「憂きより外の思ひ出でぞなき」と詠み、同じ「思ひ出で」の語をめぐって反転している。また本巻の第千二十二首の「六十」に対し、本歌は「四十路」の歳月を顧みている。

 初句「過ぎ来にし」の「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形、「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、過ぎてきた、の意である。
 二句「四十路の春の」の「四十路」は四十年、四十歳の意で、本巻の第千二十二首の二句「六十は馴れぬ」と年齢を詠む点で応じる。
 三句「夢の世は」は、夢のようにはかない世は、の意で、春の夢のはかなさを重ねている。
 四句「憂きより外の」は、つらいこと以外の、の意である。
 結句「思ひ出でぞなき」の「ぞ」は強意の係助詞で、連体形の「なき」で結ぶ。思い出は何もない、の意である。本巻の第九百八十七首の三句「思ひ出でに」と対をなす。

よそぢ:四十年、四十歳
うし:つらい、憂鬱である
作者
覚審
出典
千載和歌集
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世の中のありしにもあらずなりゆけば 涙さへこそ色変はりけれ
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