立てばたつゐれば又ゐる吹く風と
浪とは思ふどちにやあるらむ
- 歌の意味
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風が立てば波も立ち、風がおさまれば波もまたおさまる。吹く風と波とは、思い合う仲間どうしなのだろうか。
- 鑑賞
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一月十五日、この日は小豆粥を炊く日であるが、それも煮なかった。残念なことに天候が悪いので、一行は少しずつしか進めずにいるうちに、出発から二十日余りが過ぎていた。むなしく日を過ごしているので、人々は海を眺めて過ごすばかりであった。
この場面で歌を詠む女の童は、一行に付き従っていた少女である。一月十五日に小豆粥を食べるのは、邪気を払うための年中行事であった。
風が立てば波も立ち、風がやめば波も静まる様子を見て、女の童が詠んだのがこの歌である。
日記の書き手は、取るに足りない者が詠んだにしては、たいそう似つかわしい歌だと評している。翌日も風と波はやまず、一行は同じ所にとどまり続けた。
初句「立てばたつ」は、風が立つと波も立つ、の意で、第二句「ゐれば又ゐる」は、風がおさまると波もまたおさまる、という。「ゐる」は本来、座る、とどまるの意で、人が立ったり座ったりする動作にも重ねている。
第三句「吹く風と」、第四句「浪とは思ふ」と続き、結句「どちにやあるらむ」で、思い合う仲間なのだろうか、と結ぶ。「どち」は仲間、「や」は疑問の係助詞、「らむ」は現在推量の助動詞である。
風と波とが連れ立って動く様子を、仲のよい友どうしにたとえた、子どもらしい素直な見立ての歌である。海が荒れて船を出せない一行のもどかしさが、その奥にうかがえる。
ゐる:座る。とどまる。風や波がおさまる
どち:仲間。友
女の童(めのわらは):少女。召し使いの少女も指す
- 作者
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紀貫之
- 出典
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土佐日記
- 前の歌
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雲もみな浪とぞ見ゆる海士もがな いづれか海と問ひて知るべく
- 次の歌
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霜だにもおかぬかたぞといふなれど 浪の中にはゆきぞ降りける