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立つなみを雪か花かと吹く風ぞ
よせつゝ人をはかるべらなる

歌の意味
立つ波を雪か花かと見せかけて、吹く風が波を寄せながら人をだましているようだ。
鑑賞
 一月十八日、一行はなお同じ所にとどまっていた。海が荒れているので船は出さない。この泊は遠くから見ても近くから見てもたいそう趣深いが、旅の苦しさのために何も心に浮かばない。男たちは気晴らしに漢詩などを口にしているらしい。船も出さずにむなしく過ごす中で、波を題材にした歌が次々と詠まれた。
 この日に歌を詠むのは、「ある人」「人」、そして「船のをさしける翁」である。「船のをさしける翁」は船の長であった老人の意で、一行の主である前の守を指すと読まれる。
 前の二首を少しよいと聞いた船の長である翁が、何か月にもわたる旅の苦しさの気晴らしに詠んだのがこの歌である。
 この歌について人々があれこれ言うのを、別の人がじっと聞き入って歌を詠んだ。ところがその歌は三十七文字もあり、人々は皆こらえきれずに笑うほどであった。歌の主はたいそう機嫌を悪くした。人々はまねようとしてもまねできず、書いたとしても読み通すのは難しいだろう、と日記は記している。

 初句「立つなみを」は、立つ波を、の意。第二句「雪か花かと」は、雪か花かと思わせるように、という。第三句「吹く風ぞ」の「ぞ」は強意の係助詞である。
 第四句「よせつゝ」は、波を寄せながら、で、「つつ」は反復を表す接続助詞。結句「人をはかるべらなる」は、人をだますようだ、の意で、「はかる」はだます、欺くの意。「べらなる」は推量の助動詞「べらなり」の連体形で、「ぞ」を受けて係り結びをなしている。
 前の二首がそれぞれ波を雪と花に見立てたのを受け、その両方をまとめて、波を雪とも花とも見せかけて人を欺いているのは風だ、と風に主体を移している。二首を総括する機知のある歌である。

はかる:だます。欺く
をさ:長。集団のかしら
翁(おきな):年老いた男性
作者
紀貫之
出典
土佐日記
前の歌
風による浪のいそにはうぐひすも 春もえしらぬ花のみぞ咲く
次の歌
あをうなばらふりさけ見れば春日なる 三笠の山にいでし月かも