漕ぎて行く船にてみればあしびきの
山さへゆくを松は知らずや
- 歌の意味
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漕いで行く船から見ると、山までも動いていくのに、山の松はそれを知らないのだろうか。
- 鑑賞
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一月二十二日、一行は前夜の泊からほかの泊を目指して進んだ。遠くに山が見えている。この日は海が荒れ模様で、磯には雪が降るように波しぶきが散り、波の花が咲いていた。
船には、年は九つばかりの男の童が乗っていた。年齢よりも幼く見える子である。
船が漕ぎ進むにつれて、山も動いていくように見えるのを、この男の童が不思議に思って詠んだのがこの歌である。
日記の書き手は、幼い童の歌としては似つかわしいと評している。続けて、荒れた海の波を見て、ある人が「浪とのみひとへに聞けどいろ見れば雪と花とにまがひけるかな」と詠んだ。
初句「漕ぎて行く」、第二句「船にてみれば」は、漕いでいく船の上から見ると、の意。第三句「あしびきの」は「山」にかかる枕詞である。
第四句「山さへゆくを」の「さへ」は添加を表す副助詞で、山までも動いていくのに、の意。結句「松は知らずや」は、山の松はそれを知らないのだろうか、と問いかける形で結ぶ。「や」は疑問の係助詞である。
船が進むと岸の山が動くように見えるという、子どもの素朴な驚きをそのまま歌にしたものである。山が動いているのに、そこに生える松は気づかないのか、という発想に幼い童らしい無邪気さがある。
童(わらは):子ども。元服前の少年少女
泊(とまり):船が停泊する所。港
- 作者
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紀貫之
- 出典
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土佐日記
- 前の歌
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わが髮のゆきといそべのしら浪と いづれまされりおきつ島もり
- 次の歌
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浪とのみひとへに聞けどいろ見れば 雪と花とにまがひけるかな