古典和歌stream

吹くかぜの絶えぬ限りし立ちくれば
波路はいとゞはるけかりけり

歌の意味
吹く風が絶えない限り、波が立ってくるので、海路はいっそう遥かに思われることだ。
鑑賞
 一月二十七日、風が吹き波が荒いので、船は出さなかった。人々は皆たいそう嘆いた。男たちは心を慰めるために漢詩を口ずさみ、「日を望めば都遠し」などという句を語っていた。
 「日を望めば都遠し」は、中国の晋の明帝が幼いころ、太陽と都の長安とどちらが遠いかと問われて、目を上げれば太陽は見えるが長安は見えない、と答えたという故事に基づく句である。
 ある女の「日をだにもあま雲ちかく見るものを都へと思ふ道のはるけさ」に続けて、ある人が詠んだのがこの歌である。
 この日は一日中風がやまず、人々は爪はじきをして不満を表しながら寝てしまった。翌二十八日も一晩中雨がやまなかった。

 初句「吹くかぜの」、第二句「絶えぬ限りし」は、吹く風が絶えない限りは、の意で、「し」は強意の副助詞である。第三句「立ちくれば」は、波が立って寄せてくるので、の意で、風が立つことと波が立つことを重ねている。
 第四句「波路はいとゞ」の「いとど」は、いっそう、ますます、の意。結句「はるけかりけり」は、遥かであることだ、と詠嘆の助動詞「けり」で結ぶ。
 前の歌が都への道の遠さを嘆いたのを受け、風がやまず波が立ち続けるために、海路がいっそう遠く感じられると詠んでいる。足止めされたもどかしさを、風と波の絶え間なさに託した歌である。

波路(なみぢ):海の上を船で行く道。海路
つまはじき:爪をはじくこと。不満や嫌悪を表すしぐさ
作者
紀貫之
出典
土佐日記
前の歌
日をだにもあま雲ちかく見るものを 都へと思ふ道のはるけさ
次の歌
おぼつかなけふは子の日かあまならば 海松をだに引かましものを