思ふ事なくて過しゝおとゝひを
昨日とけふになすよしも哉
- 歌の意味
-
思い悩むこともなく過ごした一昨日を、昨日にも今日にもする方法があればよいのに。
- 鑑賞
-
所を変えた物忌みのため、帥の宮は人目につかない所に滞在しており、いつもの車が和泉式部を迎えに来た。和泉式部は、今はもうどのようにでもおっしゃるとおりにと思って参上した。心のどかに、起きても寝ても語り合い、所在なさも紛れたので、和泉式部はますます帥の宮の邸へ参りたい気持ちになった。物忌みが明けると、和泉式部はいつもの家に帰ったが、今日はいつもより別れの名残が恋しく思い出され、やりきれない気持ちになった。
女は和泉式部のことで、大江雅致の娘であり、和泉守橘道貞の妻として小式部内侍をもうけた。帥の宮は冷泉天皇の第四皇子敦道親王で、大宰帥であったことからこう呼ばれる。物忌みは、陰陽道で凶事を避けるため一定期間家にこもって身を慎むことである。
和泉式部から「つれ〳〵とけふかそふれは年月に昨日そ物は思はさりける」が届き、帥の宮はしみじみと思って、この歌を返した。
帥の宮は歌の後に「そう思うけれど、かいのないことだ。やはり決心しなさい」と書き添えた。しかし和泉式部はひどく気が引けて、すんなりとは決心がつかず、ただ物思いにふけって日々を過ごしていた。
初句と第二句の「思ふ事なくて過しゝ」は、思い悩むこともなく過ごした、という意味で、「しし」はサ変動詞「す」の連用形と過去の助動詞「き」の連体形である。第三句の「おとゝひを」は、一昨日を、の意で、二人で過ごした物忌みの日を指す。
下の句の「昨日とけふになすよしも哉」は、昨日と今日にする方法があればよいのに、という意味で、「よし」は方法、手段、「もがな」は願望の終助詞である。和泉式部が「昨日」だけは物思いがなかったと詠んだのを受け、自分にとっては一昨日がそうだったと日を一日ずらして答え、その幸せな日を昨日にも今日にも続けたいと願って、二人で暮らすことへの思いを込めている。
よし:方法、手段
もがな:〜があればよいのに。願望を表す
- 作者
-
敦道親王
- 出典
-
和泉式部日記
- 前の歌
-
つれ〳〵とけふかそふれは年月に 昨日そ物は思はさりける
- 次の歌
-
なくさむる君もありとはおもへとも 猶夕くれは物そ悲しき