古典和歌stream

現にて思へはいはんかたもなし
今宵のことを夢になさはや

歌の意味
現実のこととして思うと、何とも言いようもない。今夜のことは、夢にしてしまいたいものだ。
鑑賞
 霜の朝の贈答の夜、帥の宮は和泉式部のもとを訪れ、いつものようにとりとめのない話をしていたが、「もしあちらにお連れしたあとで、私がよそへ行ったり、法師になったりして、あなたにお会いしなくなったら、不本意だとお思いになるだろうか」と心細げに言った。和泉式部は、どのようにお考えが変わったのだろうか、またそのようなことが起こりそうなのだろうかと思うと、ひどく悲しくなって泣いてしまった。みぞれまじりの雨が静かに降るなか、帥の宮は少しもまどろまず、この世のことばかりでなく来世のことまで、しみじみとしたことを語り続けた。和泉式部は、思いがけない宮仕えのようなものではあるが、何事もお嫌いにならないお心なので、自分の心のほどもお見せしようと思って決心したのに、このままでは自分もかねての望みどおり出家する身になるばかりだと思うと、たいそう悲しく、何も申し上げずにつくづくと嘆いていた。
 女は和泉式部のことで、大江雅致の娘であり、和泉守橘道貞の妻として小式部内侍をもうけた。帥の宮は冷泉天皇の第四皇子敦道親王で、大宰帥であったことからこう呼ばれる。
 帥の宮が帰ったのち、和泉式部は、頼りないことではあるが所在なさの慰めにもと思い立ったことなのに、それならどうしたらよいのかと思い乱れて、この歌を送った。
 和泉式部は歌の後に「と存じますが、どうしてそのようにできましょう」と書き、端に「しかはかり契りし物を定なきさはよの常におもひなせとや」を書き添え、「残念にも」と結んだ。

 初句と第二句の「現にて思へは」は、現実のこととして思うと、という意味で、「ば」は已然形に付いた確定条件である。第三句の「いはんかたもなし」は、言いようもない、の意である。
 下の句の「今宵のことを夢になさはや」は、今夜のことを夢にしてしまいたい、という意味で、「ばや」は自分の願望を表す終助詞である。出家をほのめかした帥の宮の言葉を、現実と受けとめるにはあまりにもつらいので、いっそ夢だったことにしたいと願い、帥の宮への深い思いと不安とを率直に打ち明けている。

現(うつつ):現実、目覚めている状態
作者
和泉式部
出典
和泉式部日記
前の歌
おつるなみたは雨とこそふれ
次の歌
しかはかり契りし物を定なき さはよの常におもひなせとや