あな戀しいまも見てしか山賤の
垣ほにおふるやまと撫子
- 歌の意味
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ああ恋しい。今すぐにでも逢いたいものだ。山里の人の垣根に生えている、大和撫子のようなあなたに。
- 鑑賞
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出家をほのめかした夜の贈答ののちも、和泉式部はしみじみと悲しく思われて、嘆いてばかりいた。早く決心して邸に参っていればよかったと思っていた昼頃、帥の宮から文が届いた。
女は和泉式部のことで、大江雅致の娘であり、和泉守橘道貞の妻として小式部内侍をもうけた。帥の宮は冷泉天皇の第四皇子敦道親王で、大宰帥であったことからこう呼ばれる。
前夜の気まずさを和らげるように、帥の宮はこの歌を送った。
和泉式部は「ああ、もの狂おしいこと」と思わず口にして、「戀しくはきてもみよかし千早振神のいさむる道ならなくに」と返した。
この歌は、『古今和歌集』恋四のよみ人知らず「あな恋し今も見てしか山がつの垣ほに咲ける大和撫子」をほぼそのまま引いたもので、ああ恋しい、今すぐにも見たい、山里の人の家の垣根に咲いている大和撫子を、という内容である。
初句と第二句の「あな戀しいまも見てしか」は、ああ恋しい、今すぐにでも逢いたい、という意味で、「あな」は感動詞、「てしか」は自分の願望を表す終助詞である。
第三句から結句の「山賤の垣ほにおふるやまと撫子」は、山里に住む人の垣根に生えている大和撫子、という意味で、「山賤」は山里に住む身分の低い人、「垣ほ」は垣根をいう。撫子には「撫でし子」すなわちいとしい子の意が響き、和泉式部をたとえている。古歌をほぼそのまま用い、自分の言葉で言うよりも素直に恋しさを伝える形をとって、前夜の重い話のあとの和泉式部の心をほぐそうとしている。
山賤(やまがつ):山里に住む身分の低い人
垣ほ(かきほ):垣根
大和撫子(やまとなでしこ):撫子の花。いとしい子のたとえとされる
- 作者
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敦道親王
- 出典
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和泉式部日記
- 前の歌
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ほとしらぬ命計そさためなき 契しことは住の江のまつ
- 次の歌
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戀しくはきてもみよかし千早振 神のいさむる道ならなくに