雲間なくながむる空もかきくらし
いかにしのぶる時雨れなるらむ
- 歌の意味
-
雲の切れ間もなく物思いにふけって見つめている空までが一面に暗くなって、いったい誰を恋い偲んで降る時雨なのだろう。
- 鑑賞
-
寛弘五年(1008)十月、一条天皇の行幸を控えた頃の土御門殿でのこと。小少将の君から手紙が届き、紫式部が返事を書いていると、時雨がさっと降り出してあたりが暗くなったので、使いの者も帰りを急いだ。紫式部は「空の様子までが心を騒がせて」と書き、つたない歌も書き添えたが、それがどのような歌だったかは記されていない。暗くなった頃、小少将の君から折り返し、ぼかしの入った濃い紫の紙に書いた歌が届いた。
小少将の君は、源時通の娘で、道長の正室である源倫子の姪にあたり、中宮彰子に仕える上臈女房である。紫式部とは局を合わせて住むほど親しい同僚であった。
紫式部が「空の様子までが心を騒がせて」と書き送った手紙を受けて、時雨の降る夕暮れの空を見つめながら、小少将の君はこの歌を返した。
紫式部は自分が先に何を書いたかも覚えていないまま、すぐに「ことわりの時雨れの空は雲間あれどながむる袖ぞ乾く間もなき」と返歌した。二人の親しさは、のちに里下がりの折や中宮還啓の夜にも、憂いを語り合う姿として描かれていく。
初句から第三句の「雲間なくながむる空もかきくらし」は、雲の切れ間もなく物思いにふけって眺める空までもが、すっかり暗くなって、という意味である。「ながむ」は物思いにふけりながらぼんやりと見つめることをいい、「かきくらす」は空を一面に暗くすることをいう。
下の句の「いかにしのぶる時雨れなるらむ」は、どのように誰を偲んで降る時雨なのだろう、という意味で、時雨を涙のたとえとし、自分の沈んだ心を空に託している。「らむ」は現在推量の助動詞である。紫式部の「空の様子までが心を騒がせて」という言葉を受け、同じ空を見る二人の心を重ね合わせた歌である。
時雨(しぐれ):秋の終わりから冬の初めにかけて、降ったりやんだりする雨
ながむ:物思いにふけりながらぼんやりと見つめる
かきくらす:空を一面に暗くする
しのぶ(偲ぶ):懐かしく思い慕う
濃染紙(こぞめがみ):濃い紫色に染めた紙
- 作者
-
小少将の君
- 出典
-
紫式部日記
- 前の歌
-
水鳥を水の上とやよそに見む われも浮きたる世を過ぐしつつ
- 次の歌
-
ことわりの時雨れの空は雲間あれど ながむる袖ぞ乾く間もなき