浮き寝せし水の上のみ恋しくて
鴨の上毛にさへぞ劣らぬ
- 歌の意味
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あなたと並んで浮き寝をした宮中の日々ばかりが恋しくて、一人で過ごす夜の冷たさは、霜の置く鴨の上毛にさえ劣らないほどだ。
- 鑑賞
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寛弘五年(1008)十一月、中宮彰子の内裏への還啓が近づくなか、土御門殿では『源氏物語』の冊子作りが進められていた。池に水鳥が日ごとに増えていくのを見て、還啓の前に雪が降ってほしいと願っていた紫式部だったが、少しの間だけ実家に退出していたところ、その二日ほど後に雪が降った。見所もない実家の木立を見ても心は晴れず、物語を通じて語り合った友とも疎遠になり、宮仕えに染まった自分を思い知らされる。そうしたなかで、夜ごと中宮の御前近くに並んで横になり、語り合った大納言の君の様子が恋しく思い出された。
大納言の君は源廉子のことで、源扶義の娘であり、道長の正室源倫子の姪にあたる。中宮彰子に仕える上臈女房で、紫式部と親しかった。
里居の寂しさのなかで、宮中で夜ごと語り合った大納言の君が恋しく思われ、紫式部はこの歌を書き送った。
大納言の君からは「うちはらふ友なきころの寝覚めにはつがひし鴛鴦ぞ夜半に恋しき」と返歌があり、紫式部はその筆跡までも美しいのを見て、申し分のない人だと感じ入った。その後、中宮が雪の折に紫式部が退出していたことを残念がっていると伝え聞き、倫子からも帰参を促す手紙が届いたため、紫式部は宮中に戻った。
初句と第二句の「浮き寝せし水の上のみ」は、水鳥が水に浮いて寝るように、あなたと並んで仮寝をした宮中のことばかりが、という意味である。「浮き」には「憂き」が響き、「水の上」は宮仕えの日々をたとえている。「せし」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、過ぎた日々を振り返る。
下の句の「鴨の上毛にさへぞ劣らぬ」は、霜の置く鴨の羽の冷たさにさえ劣らない、という意味で、一人寝の冷たさと寂しさを、冬の水鳥の姿に託している。「さへ」は添加、「ぞ〜劣らぬ」は係り結びである。直前に池の水鳥を眺めて雪を待った心情とつながり、水鳥の縁で言葉を組み立てた一首である。
里居(さとい):宮仕えの者が実家に下がっていること
還啓(かんけい):中宮などが外出先から宮中に帰ること
浮き寝(うきね):水鳥が水に浮いたまま寝ること、転じて落ち着かない仮寝
上毛(うわげ):鳥の体の表面を覆う羽毛
- 作者
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紫式部
- 出典
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紫式部日記
- 前の歌
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あしたづの齢しあらば君が代の 千歳の数もかぞへとりてむ
- 次の歌
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うちはらふ友なきころの寝覚めには つがひし鴛鴦ぞ夜半に恋しき