人にまだ折られぬものをたれかこの
すきものぞとは口ならしけむ
- 歌の意味
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私はまだ誰にも折られたことがない、つまり誰のものにもなったことがないのに、いったい誰が、この私を色好みだなどと言いふらしたのだろうか。
- 鑑賞
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『源氏物語』が中宮彰子の御前に置かれていたのを道長が見つけ、いつものように冗談を言い合った折のこと。道長は、梅の実の下に敷かれていた紙に歌を書きつけて紫式部に与えた。
道長は中宮彰子の父で、紫式部の主家の主である。紫式部が『源氏物語』の作者であることは宮中で知られており、道長はその物語の恋愛描写にかこつけて紫式部をからかった。
道長から「すきものと名にしたてれば見る人の折らで過ぐるはあらじとぞ思ふ」という歌を与えられ、紫式部はこの歌で切り返した。
紫式部は歌の後に「めざましう(心外なことです)」と書き添え、からかいをきっぱりとはねつけている。この後には、渡殿で寝ていた夜に何者かが戸を叩き、翌朝歌が届くという場面が続く。
初句と第二句の「人にまだ折られぬものを」は、まだ誰にも折られていないのに、という意味で、道長の歌の「折らで過ぐる」を受け、自分はまだ誰にも口説き落とされていない、と言い返している。「ものを」は逆接の接続助詞である。
第三句から結句の「たれかこのすきものぞとは口ならしけむ」は、いったい誰がこの私を好き者だなどと言い慣らしたのだろうか、という意味である。「か」は疑問の係助詞、「けむ」は過去推量の助動詞で、係り結びをなす。「すきもの」は道長の歌の掛詞をそのまま受け、「口ならし」には、言いふらす意とともに、酸っぱい梅を口にして口を鳴らす意が響くとされる。道長の言葉を一つ一つ受けとめながら、毅然と否定した返歌である。
口ならす(くちならす):言い慣らす、口癖のように言いふらす
折る(おる):枝を折る。ここでは女性を口説き落とすことのたとえ
- 作者
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紫式部
- 出典
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紫式部日記
- 前の歌
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すきものと名にしたてれば見る人の 折らで過ぐるはあらじとぞ思ふ
- 次の歌
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よもすがら水鶏よりけになくなくぞ 槙の戸口にたたき侘びつる