今さらに春を忘るる花もあらじ
安く待ちつつ今日も暮らさん
- 歌の意味
-
今になって春を忘れてしまう花もあるまい。心安らかに待ちながら、今日も一日を過ごそう。
- 鑑賞
-
春歌 58
詞書「待花」
花を待つという題の歌で、ここから四首が続く。毎年欠かさず春に咲く花が、今さら春を忘れることなどあるまい、だから焦らずに安心して待ちながら、今日も一日を過ごそう、と自らに言い聞かせている。
待ちきれない心を、花への信頼によって落ち着かせようとしているところに、花を待つ者のいじらしさが表れている。
初句「今さらに」は、今になって、の意である。
二句「春を忘るる」は、春が来たことを忘れてしまう、の意で、花を擬人化している。
三句「花もあらじ」の「じ」は打消の推量を表し、そのような花はあるまい、と言い切って三句切れとなる。字余りである。
四句「安く待ちつつ」は、心安らかに待ちながら、の意である。
結句「今日も暮らさん」の「ん」は意志を表し、今日も一日を過ごそう、と結んでいる。
くらす:日を過ごす
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
誰かまた花を尋ねて吉野山 苔踏み分くる岩伝ふらん
- 次の歌
-
おぼつかないづれの山の峰よりか 待たるる花の咲きはじむらん