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吉野山ほき路伝ひに尋ね入りて
花見し春はひと昔かも

歌の意味
吉野山の崖沿いの道を伝って奥深く尋ね入り、花を見たあの春は、もうひと昔も前のことになったのだろうか。
鑑賞
春歌 96

詞書「山寺の花盛りなりけるに、昔を思ひ出でて」
 詞書によれば、山寺の花が盛りであったときに、昔を思い出して詠んだ歌である。かつて吉野山の崖沿いの険しい道を伝って山深く分け入り、花を見たあの春は、もうひと昔も前のことになってしまったのだろうか、と回想している。
 目の前の山寺の花をきっかけに、若き日の吉野の花の記憶がよみがえっている。本巻の第六十二首と同じく「吉野山」「尋ね入りて」の語を用い、かつて分け入った吉野の花を、ここでは遠い昔の思い出として振り返っている。

 初句「吉野山」は、大和国の桜の名所である。
 二句「ほき路伝ひに」は、崖沿いの険しい道を伝って、の意である。
 三句「尋ね入りて」は、探し求めて奥深く入って、の意で、字余りとなっている。本巻の第六十二首の三句と同じ語句である。
 四句「花見し春は」は、花を見たあの春は、の意で、過去の「き」の連体形「し」によって、実際に体験した過去を示す。
 結句「ひと昔かも」の「かも」は詠嘆を込めた疑問で、もうひと昔前のことになったのだろうか、と結んでいる。

ほきぢ:崖沿いの険しい道
ひとむかし:ひと区切りの過ぎ去った昔
作者
西行
出典
山家集
前の歌
木の下は見る人しげし桜花 よそに眺めて香をば惜しまん
次の歌
眺むるに花の名立ての身ならずは この里にてや雲を暮らさん