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眺むるに花の名立ての身ならずは
この里にてや雲を暮らさん

歌の意味
花を眺めることで浮き名が立つような身でないならば、この里で、雲と見まがう花を眺めながら日を暮らそうか。
鑑賞
春歌 97

詞書「修行し侍りけるに、花のおもしろかりける所にて」
 詞書によれば、仏道修行のために旅をしていた折、花の美しい所で詠んだ歌である。花に心を奪われていると噂されるような身でなければ、この里にとどまって、雲のように咲く花を眺めながら日を過ごしたいものだ、と詠んでいる。
 修行の身でありながら花に引きとめられる心と、それをはばかる心との揺れが表れている。なお本文の四句は「この、とにてや」とあって一字が欠けているため、読み仮名の行に従って「この里にてや」と読む。また本文の結句は「雲をくらさん」とあり、読み仮名の行の「はるをくらさむ」と一致しない。ここでは本文の表記に従う。

 初句「眺むるに」は、花を眺めることによって、の意である。
 二句「花の名立ての」は、花に心を寄せているという評判が立つ、の意で、浮き名が立つことをいう。
 三句「身ならずは」は、そのような身でないならば、の意で、仮定の条件を表す。
 四句「この里にてや」の「や」は疑問の係助詞で、結句の「ん」と係り結びをなす。修行の途中で立ち寄ったこの里で、の意である。
 結句「雲を暮らさん」は、雲と見まがう花を眺めて日を暮らそうか、の意で、花を雲に見立てた表現で結んでいる。

しゅぎゃう:仏道修行のために諸国を巡り歩くこと
なだて:評判が立つこと。浮き名
くらす:日を過ごす
作者
西行
出典
山家集
前の歌
吉野山ほき路伝ひに尋ね入りて 花見し春はひと昔かも
次の歌
待ち来つる八上の桜咲きにけり 荒くおろすな三栖の山風