行く春をとどめかねぬる夕暮は
曙よりもあはれなりけり
- 歌の意味
-
過ぎ去っていく春を引きとめることのできない夕暮れは、春の曙よりもいっそう、しみじみと心にしみるものであった。
- 鑑賞
-
春歌 173
詞書は前の歌に続き「三月一日足らで暮れにけるによみける」
春の最後の日の夕暮れ、去っていく春を引きとめることのできない夕暮れは、春の美しさの象徴とされる曙よりも、かえってしみじみと心にしみる、と詠む歌で、春の部を締めくくる一首である。
春の情趣を代表する曙と、春の終わりの夕暮れとを比べ、去りゆくものを惜しむ心の深さを表している。本巻の第二首が立春の朝を「春の曙」で結んでいたのに対し、この歌では春の最後の夕暮れを曙と比べており、春の始まりの曙と終わりの夕暮れとで、春の部の巻頭と巻末とが呼応している。
初句「行く春を」は、過ぎ去っていく春を、の意である。
二句「とどめかねぬる」は、引きとめることができない、の意である。
三句「夕暮は」は、春の最後の日の夕暮れは、の意である。
四句「曙よりも」は、春の曙よりも、の意で、本巻の第二首の結句「春の曙」と呼応している。
結句「あはれなりけり」は、しみじみと心にしみることだ、と気づきの「けり」で、春の部全体を結んでいる。
とどめかぬ:引きとめることができない
あけぼの:夜がほのぼのと明けはじめるころ
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
今日のみと思へば長き春の日も ほどなく暮るる心地こそすれ
- 次の歌
-
限りあれば衣ばかりは脱ぎかへて 心は春を慕ふなりけり