限りあれば衣ばかりは脱ぎかへて
心は春を慕ふなりけり
- 歌の意味
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季節には限りがあるので、衣だけは夏のものに脱ぎ替えたけれども、心はなお過ぎ去った春を慕っているのだった。
- 鑑賞
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夏歌 174
夏の部の巻頭に置かれた一首である。陰暦四月一日の更衣を背景に、季節の決まりに従って衣だけは夏物に替えたが、心はまだ去っていった春を恋い慕っている、と詠む。衣と心とを対比させ、外見は夏になっても内面は春にとどまっている心情を表している。
春の部の結びである巻第一の第百七十三首が去りゆく春を惜しむ歌であったのを受け、夏の部はなお春を慕う心から始まっている。本巻の巻末の第二百五十三首が早くも秋めく風を詠んでいるのと合わせ、前の季節への名残と次の季節への予感とで夏の部が囲まれている。
初句「限りあれば」は、季節の移り変わりには定まった限りがあるので、という意で、已然形に「ば」が付いた確定条件である。
二句「衣ばかりは」の「ばかり」は限定を表し、衣だけは、と言って四句の「心は」と対比させている。
三句「脱ぎかへて」は、春の衣を夏の衣に替える更衣をいう。宮中では陰暦四月一日に行われ、夏の始まりを示す行事であった。接続助詞「て」で下の句へ続け、衣と心との食い違いを導いている。
四句「心は春を」は、二句の「衣ばかりは」と対になり、心だけはなお春に向いていることを示す。
結句「慕ふなりけり」の「なりけり」は、改めて気づいた詠嘆を表し、春を恋い慕う自分の心を見つめて結んでいる。
ころもがへ:季節に合わせて衣服を替えること、陰暦四月一日に夏の衣に替えた
ぬぎかふ:衣を脱いで別のものに着替える
したふ:去っていくものを恋しく思って後を追う
- 作者
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西行
- 出典
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山家集
- 前の歌
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行く春をとどめかねぬる夕暮は 曙よりもあはれなりけり
- 次の歌
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草しげる道刈りあけて山里は 花見し人の心をぞ知る