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西にのみ心ぞかかるあやめ草
この世ばかりの宿と思へば

歌の意味
私の心はただ西方浄土にばかり掛かっている。菖蒲を葺くこの住まいも、この世だけの仮の宿にすぎないと思うので。
鑑賞
夏歌 205

詞書「五月五日、山寺へ人の今日いる物なればとて、菖蒲をつかはしたりける返事に」
 詞書から、五月五日、山寺にいる西行のもとへ、人が今日は必要なものだからと菖蒲を贈ってきたことへの返事として詠んだ歌であることがわかる。菖蒲は軒に掛けて葺くものだが、自分の心は西方浄土にばかり掛かっている、この住まいもこの世だけの仮の宿だと思うから、と詠む。節句の菖蒲を受けながら、来世を願う出家者の心を示している。
 次歌も同じ詞書のもとに菖蒲を詠み、西方浄土への思いを重ねており、二首で一組の返事となっている。

 初句「西にのみ」は、西方極楽浄土の方角にだけ、の意である。
 二句「心ぞかかる」は、係助詞「ぞ」を受けて連体形「かかる」で結ぶ係り結びで、二句切れである。「かかる」は心が向かう意と、菖蒲を軒に掛ける意とが響き合い、三句の「あやめ草」と縁語になっている。
 三句「あやめ草」は、端午の節句に軒に葺く菖蒲で、贈られてきたものを指す。
 四句「この世ばかりの」は、この世だけの、仮の、という意である。
 結句「宿と思へば」は、已然形に「ば」が付いた確定条件で、そう思うので、と二句の理由を後から述べる倒置になっている。

あやめぐさ:菖蒲、端午の節句に軒に葺いた
やど:住まい、宿
作者
西行
出典
山家集
前の歌
折にあひて人に我が身や引かれまし 筑摩の沼のあやめなりせば
次の歌
みな人の心のうきはあやめ草 西に思ひの引かぬなりけり