みな人の心のうきはあやめ草
西に思ひの引かぬなりけり
- 歌の意味
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世の人々の心がつらく憂いものであるのは、菖蒲を泥の中から引くように、西方浄土へと思いが引かれていかないからなのであった。
- 鑑賞
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夏歌 206
詞書は前の歌に続き「五月五日、山寺へ人の今日いる物なればとて、菖蒲をつかはしたりける返事に」
前歌と同じ詞書のもと、菖蒲を贈ってきた人への返事の二首目である。世の人の心が憂いに満ちているのは、菖蒲を沼の泥から引き抜くように、西方浄土へと思いが引かれていかないからだ、と詠む。菖蒲が泥地に根を張って生えることを踏まえ、俗世に心をとらわれる人々を諭すような趣がある。
前歌が自分の心は西にのみ掛かると詠んだのに対し、この歌は世の人々の心が西に引かれないことを詠んでおり、自分と世の人とを対比させて二首一組の返事としている。
初句「みな人の」は、世のすべての人々の、の意である。
二句「心のうきは」の「うき」は掛詞で、「憂き」と、菖蒲が生える泥地をいう「うき」とを掛けている。
三句「あやめ草」は、泥地に根を張る菖蒲で、二句の「うき」と結句の「引か」とに関わる語として置かれている。
四句「西に思ひの」は、西方浄土へと向かう思いをいう。前歌の初句「西にのみ」と同じく西を詠み、二首を結びつけている。
結句「引かぬなりけり」の「引く」は、菖蒲を引き抜くことと、心が引き寄せられることとを重ねている。「なりけり」は、そういうことだったのだと気づいた詠嘆を表して結ぶ。
うき:「憂き」のつらい意と、泥深い湿地を意味する「うき」とを掛ける
あやめぐさ:菖蒲、端午の節句に軒に葺いた
ひく:根ごと引き抜く、また心を引き寄せる
- 作者
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西行
- 出典
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山家集
- 前の歌
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西にのみ心ぞかかるあやめ草 この世ばかりの宿と思へば
- 次の歌
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水湛ふ岩間の真菰刈りかねて 空手に過ぐる五月雨の頃