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早瀬川綱手の岸を沖に見て
上りわづらふ五月雨の頃

歌の意味
流れの速い早瀬川で、いつもは舟を綱で引いて歩く岸が、増水で沖のように遠く見えて、舟がさかのぼるのに難儀する五月雨の頃であることよ。
鑑賞
夏歌 218

詞書は前の歌に続き「ある所に五月雨の歌十五首よみ侍りしに、人にかはりて」
 十五首の四首目である。川をさかのぼる舟は岸から綱で引いて上るが、五月雨で水かさが増し、綱を引く岸がはるか沖のように遠くなってしまって、舟は上るのに苦労している、と詠む。
 前歌が渡し場の沖の澪標を詠んだのに対し、この歌では岸そのものが沖のように見えるとして、増水によって川幅が広がった様子を描いている。同じ「沖」の語を用いながら、見るものを反転させている。

 初句「早瀬川」は、流れの速い川をいう。
 二句「綱手の岸を」の「綱手」は、舟を岸から引くための綱をいい、その綱を引いて歩く岸を指す。
 三句「沖に見て」は、増水で川幅が広がり、岸が沖のように遠くに見えることをいう。前歌の二句「渡りの沖の」と同じ「沖」の語を用いている。
 四句「上りわづらふ」は、さかのぼるのに難儀することをいう。
 結句「五月雨の頃」は体言止めで、五月雨の歌群に共通する結句で結ぶ。

はやせ:流れの速い瀬
つなで:舟を岸から引いて進めるための綱
のぼりわづらふ:さかのぼるのに苦労する
作者
西行
出典
山家集
前の歌
広瀬川渡りの沖の澪標 水嵩ぞ深き五月雨の頃
次の歌
水分くる難波堀江のなかりせば いかにかせまし五月雨の頃