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牡鹿伏す萩咲く野辺の夕露を
しばしもためぬ荻の上風

歌の意味
牡鹿が臥している萩の咲く野辺の夕露を、少しの間もとどめておかない、荻の上を吹く風であることよ。
鑑賞
秋歌 287

詞書「荻風払露」
 詞書「荻風払露」は、荻を吹く風が露を払うさまを詠む題である。牡鹿が臥している萩の咲く野辺に夕露が置くが、荻の上葉を吹きわたる風は、その露を少しの間もとどめておかずに払い散らしてしまう、と詠む。鹿、萩、露、荻、風と秋の景物を重ねて、秋の野の夕暮れを描いている。
 本巻の第二百六十五首が、萩の下露を荒々しく分けまいと詠んだのに対し、この歌は萩の夕露を払い散らす風を詠み、露を惜しむ心を裏から示している。

 初句「牡鹿伏す」は、雄の鹿が身を横たえている、の意で、秋の野の景物として鹿を置いている。
 二句「萩咲く野辺の」は、萩の咲く野辺の、の意で、萩は鹿の妻とされ、鹿と取り合わせて詠まれることが多い。
 三句「夕露を」は、夕方に草葉に置く露を、の意である。
 四句「しばしもためぬ」の「ためぬ」は、とどめておかない、の意で、露を少しの間も置かせない風の強さを示している。
 結句「荻の上風」は体言止めで、荻の上葉を吹きわたる風をいい、題の「荻風」に当たる。

うはかぜ:草木の上を吹きわたる風
をしか:雄の鹿
作者
西行
出典
山家集
前の歌
おしなべて木草の末の原までに なびきて秋のあはれ見えけり
次の歌
あたりまであはれ知れとも言ひ顔に 荻の音こす秋の夕風