吹き渡す風にあはれをひとしめて
いづくもすごき秋の夕暮
- 歌の意味
-
吹き渡る風にあわれを一様にこめて、どこもかしこもぞっとするほどもの寂しい秋の夕暮れであるよ。
- 鑑賞
-
秋歌 289
詞書「秋歌中に」
詞書の「秋歌中に」から、秋の歌として詠んだ中の一首であることがわかる。野山を吹き渡る風が、どこにもひとしくあわれをこめているので、どこもかしこもぞっとするほどもの寂しい秋の夕暮れである、と詠む。特定の景物ではなく、秋の夕暮れ全体に満ちる寂しさを捉えている。
ここから四首、同じ詞書のもとで秋の夕暮れの寂しさとかなしさを詠む歌が続き、そのうち三首が「秋の夕暮」で結ばれている。本巻の第四百七十首「心なき身にもあはれは知られけり」も同じ結句をもち、秋の夕暮れは本巻を通じて繰り返し詠まれる主題となっている。
初句「吹き渡す」は、風が広く吹き渡る、の意で、風の及ぶ範囲の広さを示す。
二句「風にあはれを」は、風によってしみじみとした情趣を、の意である。
三句「ひとしめて」は、一様にして、等しくして、の意で、どこにも同じようにあわれをこめるさまをいう。
四句「いづくもすごき」の「すごし」は、ぞっとするほどもの寂しい、の意で、どこも同じく寂しい景であることを示す。
結句「秋の夕暮」は体言止めで、寂しさの極まる秋の夕暮れを示して結ぶ。
すごし:ぞっとするほどもの寂しい
ひとしむ:等しくする、一様にする
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
あたりまであはれ知れとも言ひ顔に 荻の音こす秋の夕風
- 次の歌
-
おぼつかな秋はいかなる故のあれば すずろにもののかなしかるらん