眺むればほかの影こそゆかしけれ
変はらじものを秋の夜の月
- 歌の意味
-
月を眺めていると、ほかの所で見る月の光こそ見てみたくなる。どこで見ても変わりはしないだろうに、秋の夜の月は。
- 鑑賞
-
秋歌 352
詞書は前の歌に続き「月歌あまた詠みけるに」
月の歌の一連の十六首目である。秋の夜の月を眺めていると、ほかの土地で見る月の光はどんなだろうかと心がひかれるが、月はどこで見ても変わりはしないだろうに、と詠む。月を愛するあまり、さまざまな所の月を見たいと願う心と、月は変わらないという思いとの間で揺れている。
前歌までが昔と今とで変わらない月を詠んだのに対し、この歌は場所が違っても変わらない月を詠んでいる。本巻の第三百五十首の「同じ影にて澄める月かな」と同じく、月の不変を詠みながら、なおほかの月を慕う心を加えている。
初句「眺むれば」は、物思いにふけりながら見つめていると、の意である。
二句「ほかの影こそ」の「影」は月の光の意で、係助詞「こそ」は三句の已然形「ゆかしけれ」と係り結びをなす。
三句「ゆかしけれ」の「ゆかし」は、見たい、知りたい、と心がひかれる、の意で、係助詞「こそ」を受けて已然形で結ぶ。ここで句切れとなる三句切れの歌である。
四句「変はらじものを」の「じ」は打消推量の助動詞、「ものを」は逆接で、変わりはしないだろうに、の意である。
結句「秋の夜の月」は体言止めで、どこでも変わらぬ月を示して結ぶ。
ゆかし:見たい、知りたいと心がひかれる
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
夜もすがら月こそ袖に宿りけれ 昔の秋を思ひ出づれば
- 次の歌
-
行方なく月に心の澄み澄みて 果てはいかにかならんとすらん