くまもなき月の面に飛ぶ雁の
影を雲かとまがへつるかな
- 歌の意味
-
一点の曇りもない月の面を横切って飛ぶ雁の影を、雲がかかったのかと見まちがえたことだ。
- 鑑賞
-
秋歌 366
詞書は前の歌に続き「月歌あまた詠みけるに」
月の歌の一連の三十首目である。一点の曇りもなく澄んだ月の面を、雁が横切って飛んでいく、その影を、雲がかかったのかと見まちがえてしまった、と詠む。雲を厭う心が強いために、雁の影までも雲かと思って驚いた心の動きを捉えている。
月の面を渡る雁は秋の代表的な景物の取り合わせで、ここでは雲を案じ続けてきたこの一連の流れの中に置かれ、雁の影を雲と見まがうという形で詠まれている。初句「くまもなき」は本巻の第三百二十七首、第三百七十五首でも用いられている。
初句「くまもなき」の「くま」は曇りや陰をいい、少しの曇りもない、の意である。
二句「月の面に」は、月の表面に、の意である。
三句「飛ぶ雁の」は、月の面を横切って飛ぶ雁の、の意である。
四句「影を雲かと」の「影」は姿の意で、雁の姿を雲ではないかと、の意である。
結句「まがへつるかな」の「まがふ」は見まちがえる意で、「つる」は完了の助動詞「つ」の連体形、「かな」は詠嘆の終助詞である。
くま:物陰、曇り、かげり
かげ:物の姿や形
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
影冴えてまことに月の明き夜は 心も空に浮かれてぞすむ
- 次の歌
-
眺むればいなや心の苦しきに いたくな澄みそ秋の夜の月