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ふりさけし人の心ぞ知られぬる
今宵三笠の月を眺めて

歌の意味
遠い異国で振り仰いで月を見たあの人の心が、おのずとわかったことだ。今宵、三笠山の月を眺めていて。
鑑賞
秋歌 407

詞書「春日に参りたりけるに、常よりも月明くてあはれなりければ」
 詞書から、春日社に参詣した折、いつもより月が明るくしみじみと心にしみたので詠んだ歌であることがわかる。今宵、春日の三笠山に出た月を眺めていると、かつて遠い異国からこの月を振り仰いだあの人の心が、おのずとよくわかった、と詠む。
 阿倍仲麻呂が唐土で詠んだ『古今和歌集』の歌「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも」を踏まえている。仲麻呂が遠い異国から故郷の三笠山の月をしのんだその心を、実際に三笠山の月を見て思いやっている。

 初句「ふりさけし」の「ふりさく」は、遠くを振り仰いで見る、の意で、仲麻呂の歌の「ふりさけ見れば」を踏まえ、振り仰いで月を見たあの人、すなわち仲麻呂を指す。
 二句「人の心ぞ」は、その人の心が、の意で、係助詞「ぞ」は三句の「ぬる」と係り結びをなす。
 三句「知られぬる」の「れ」は自発の助動詞「る」の連用形、「ぬる」は完了の助動詞「ぬ」の連体形で、おのずとわかった、の意である。ここで句切れとなる三句切れの歌である。
 四句「今宵三笠の」の「三笠」は、春日社の背後にある三笠山で、仲麻呂の歌に詠まれた山である。
 結句「月を眺めて」は、月を眺めて、の意で、心が知られた理由を倒置で後に示している。

ふりさく:遠くを振り仰いで見る
みかさやま:大和国春日にある山
作者
西行
出典
山家集
前の歌
あながちに山にのみ住む心かな 誰かは月の入るを惜しまぬ
次の歌
昼と見ゆる月に明くるを知らましや 時つく鐘の音せざりせば