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夜もすがら妻恋ひかねて鳴く鹿の
涙や野辺の露となるらん

歌の意味
一晩じゅう、妻を恋しく思う心に堪えかねて鳴く鹿の涙が、野辺の露となっているのだろうか。
鑑賞
秋歌 431

詞書は前の歌に続き「鹿」
 鹿を詠む一連の三首目である。一晩じゅう妻を恋い慕う心に堪えかねて鳴いている鹿の、その涙が、野辺の草葉に置く露となっているのだろうか、と詠む。鹿の鳴く声に妻を恋う心を聞き取り、野辺の露をその鹿の涙と見ている。
 露を涙と見る見立ては、本巻の第二百九十四首の「袂に置くは涙なりけり」にも見られ、ここではその涙を鹿のものとしている。人の涙を露とする見立てを、鹿へと移している。

 初句「夜もすがら」は、一晩じゅう、夜通し、の意である。
 二句「妻恋ひかねて」の「かぬ」は、〜しかねる、堪えかねる、の意で、妻を恋しく思う心に堪えかねて、の意である。
 三句「鳴く鹿の」は、鳴いている鹿の、の意である。
 四句「涙や野辺の」の「や」は疑問の係助詞で、結句の「らん」と呼応する。鹿の涙が野辺の、の意である。
 結句「露となるらん」の「らん」は現在推量の助動詞で、係助詞「や」を受けて連体形で結び、露となっているのだろうか、と推し量っている。

つまごひ:妻を恋しく思うこと
よもすがら:一晩じゅう、夜通し
作者
西行
出典
山家集
前の歌
萩が枝の露ためず吹く秋風に 牡鹿鳴くなり宮城野の原
次の歌
さらぬだに秋はもののみかなしきを 涙もよほすさを鹿の声