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山おろしに鹿の音たぐふ夕暮に
ものかなしとはいふにやあるらん

歌の意味
山から吹き下ろす風に、鹿の鳴く声が連れ立って聞こえてくる夕暮れ、このような時をこそ、もの悲しいと言うのであろうか。
鑑賞
秋歌 433

詞書は前の歌に続き「鹿」
 鹿を詠む一連の五首目である。山から吹き下ろす激しい風の音に、鹿の鳴く声が寄り添うように連れ立って聞こえてくる夕暮れ、このような時をこそ、人はもの悲しいと言うのであろうか、と詠む。山おろしの風と鹿の声と夕暮れとが重なる情景に、「もの悲し」という言葉の本当の意味を見いだしている。
 前歌の、秋のもの悲しさに鹿の声が加わって涙を誘う歌を受け、ここでは風、鹿の声、夕暮れの重なりを、もの悲しさの極みとして捉えている。

 初句「山おろしに」は六音の字余りで、山から吹き下ろす風に、の意である。
 二句「鹿の音たぐふ」の「たぐふ」は、連れ立つ、寄り添う、の意で、鹿の声が風の音に寄り添う、の意である。
 三句「夕暮に」は、夕暮れに、の意で、その時をいう。
 四句「ものかなしとは」は、もの悲しいとは、の意で、「とは」で言葉そのものを取り立てている。
 結句「いふにやあるらん」の「や」は疑問の係助詞、「らん」は現在推量の助動詞で、言うのであろうか、と結んでいる。

やまおろし:山から吹き下ろす風
たぐふ:連れ立つ、寄り添う
作者
西行
出典
山家集
前の歌
さらぬだに秋はもののみかなしきを 涙もよほすさを鹿の声
次の歌
鹿もわぶ空のけしきも時雨めり かなしかれともなれる秋かな