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篠原や霧にまがひて鳴く鹿の
声かすかなる秋の夕暮

歌の意味
篠竹の生い茂る原よ。霧にまぎれて姿の見えないまま鳴く鹿の声が、かすかに聞こえる秋の夕暮れであるよ。
鑑賞
秋歌 438

詞書「夕聞鹿」
 詞書「夕聞鹿」は、夕暮れに鹿の声を聞くことを詠む題である。篠竹の生い茂る原に霧が立ちこめ、その霧にまぎれて姿の見えない鹿の鳴く声が、かすかに聞こえてくる秋の夕暮れである、と詠む。霧と夕暮れの中に、姿の見えない鹿の声だけがかすかに響く寂しい景を描いている。
 霧に隔てられた鹿の声をかすかに聞く趣向は、本巻の第三百首「晴れやらぬ深山の霧の絶え絶えにほのかに鹿の声聞こゆなり」と通じる。結句「秋の夕暮」は、第二百八十九首からの秋の夕暮れの歌と同じである。

 初句「篠原や」の「篠原」は、篠竹の生い茂る原をいい、「や」は詠嘆の間投助詞である。ここで句切れとなる初句切れの歌である。
 二句「霧にまがひて」の「まがふ」は、入り交じって見分けがつかなくなる、の意で、霧にまぎれて、の意である。
 三句「鳴く鹿の」は、鳴いている鹿の、の意である。
 四句「声かすかなる」は、声がかすかに聞こえる、の意である。
 結句「秋の夕暮」は体言止めで、鹿の声のかすかに響く夕暮れを示して結ぶ。

しのはら:篠竹の生い茂る原
まがふ:入り交じって見分けがつかなくなる
作者
西行
出典
山家集
前の歌
夜を残す寝覚めに聞くぞあはれなる 夢野の鹿もかくや鳴くらん
次の歌
隣ゐね原の仮屋に明かす夜は 鹿あはれなるものにぞありける