独り寝の友には馴れてきりぎりす
鳴く音を聞けばもの思ひ添ふ
- 歌の意味
-
独り寝の友としてはすっかり馴染んでいるこおろぎであるが、その鳴く声を聞くと、かえってもの思いがつのってくる。
- 鑑賞
-
秋歌 459
詞書「独聞虫」
詞書「独聞虫」は、ひとりで虫の声を聞くことを詠む題である。独り寝の夜の友としては、こおろぎにはすっかり馴染んでいるけれども、その鳴く声を聞くと、慰められるどころか、かえってもの思いがつのってくる、と詠む。寂しさを慰める友であるはずの虫の声が、かえって寂しさを深めることを表している。
本巻の第四百五十一首の、ともに泣いてくれる虫の声を詠んだ歌と通じ、ここでは虫を独り寝の友としながら、その声がもの思いを添えるという逆の面を詠んでいる。
初句「独り寝の」は、ひとりで寝る、の意で、題の「独」に当たる。
二句「友には馴れて」は、友としては馴染んで、の意である。
三句「きりぎりす」は、今のこおろぎをいう。
四句「鳴く音を聞けば」は、鳴く声を聞くと、の意で、已然形に「ば」が付いた確定条件である。
結句「もの思ひ添ふ」は、もの思いがいっそう加わる、の意である。
なる:慣れる、馴染む
きりぎりす:今のこおろぎ
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
虫の音に露けかるべき袂かは あやしや心もの思ふべし
- 次の歌
-
草深み分け入りて訪ふ人もあれや ふりゆく跡の鈴虫の声