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立ち寄りて隣訪ふべき垣に添ひて
ひまなく這へる八重葎かな

歌の意味
立ち寄って隣を訪ねようと思う、その垣根に沿って、すき間もなく這い広がっている八重葎であることよ。
鑑賞
秋歌 471

詞書「嵯峨に住みけるころ、隣の坊に、申すべきことありてまかりけるに、道もなく葎の茂りければ」
 詞書から、嵯峨に住んでいた頃、隣の僧坊に用事があって出かけたところ、道もないほど葎が茂っていたので詠んだ歌であることがわかる。立ち寄って隣を訪ねようとするのに、その垣根に沿って、八重葎がすき間もなく這い広がっていて、通ることもできない、と詠む。人の往来の絶えた山里の暮らしの寂しさを、隣との間を隔てる葎によって表している。
 本巻の第四百四十四首で草の茂る旧知の庭を訪ねた歌と同じく、茂る草が人の訪れを阻む情景を詠んでいる。山居の住まいの荒れたさまが、晩秋に向かう本巻の流れの中に置かれている。

 初句「立ち寄りて」は、立ち寄って、の意である。
 二句「隣訪ふべき」は、隣を訪ねようとする、の意で、「べき」は意志や予定を表している。
 三句「垣に添ひて」は六音の字余りで、垣根に沿って、の意である。
 四句「ひまなく這へる」は、すき間もなく這い広がっている、の意で、「る」は存続の助動詞「り」の連体形である。
 結句「八重葎かな」は、幾重にも生い茂った葎をいい、「かな」で詠嘆して結ぶ。

やへむぐら:幾重にも生い茂った葎、荒れた家の象徴とされる
ばう:僧の住まい、僧坊
作者
西行
出典
山家集
前の歌
心なき身にもあはれは知られけり 鴫立つ沢の秋の夕暮
次の歌
いつよりか紅葉の色は染むべきと 時雨に曇る空に問はばや