染めてけり紅葉の色のくれなゐを
時雨ると見えし深山辺の里
- 歌の意味
-
すっかり染め上げてしまったのだなあ、紅葉の色を紅に。時雨が降っているように見えていた深山のほとりの里では。
- 鑑賞
-
秋歌 474
詞書「山家紅葉」
詞書「山家紅葉」は、山里の住まいで見る紅葉を詠む題である。時雨が降っているように見えていた深山のほとりの里では、その時雨が木々の葉を、紅葉の紅の色にすっかり染め上げてしまったのだなあ、と詠む。時雨によって紅に染まった山里の紅葉に気づいた感動を表している。
結句「深山辺の里」は、本巻の巻頭の第二百五十四首、第三百一首、第四百二十七首と同じである。第三百一首「かねてより梢の色を思ふかな時雨はじむる深山辺の里」で時雨の降りはじめに紅葉の色を前もって思いやった同じ里が、この歌ではついに紅に染まっており、二首が予感と実現として呼応している。初秋の風に秋を知った巻頭の里が、ここで紅葉の盛りを迎えている。
初句「染めてけり」の「て」は完了、「けり」は気づきの詠嘆で、染めてしまったのだなあ、の意である。ここで句切れとなる初句切れの歌である。
二句「紅葉の色の」は、紅葉の色の、の意である。
三句「くれなゐを」は、鮮やかな紅色を、の意である。
四句「時雨ると見えし」の「し」は過去の助動詞「き」の連体形で、時雨が降るように見えていた、の意である。
結句「深山辺の里」は体言止めで、本巻の第二百五十四首、第三百一首、第四百二十七首と同じ結句で結んでいる。
くれなゐ:鮮やかな紅色
しぐる:時雨が降る
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
糸鹿山時雨に色を染めさせて かつがつ織れる錦なりけり
- 次の歌
-
さらぬだに声弱かりし松虫の 秋の末には聞きも分かれず