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思はずによしある賤の住処かな
蔦の紅葉を軒に這はせて

歌の意味
思いもかけず、風情のある身分の低い者の住まいであることよ。蔦の紅葉を軒にまで這わせて。
鑑賞
秋歌 481

詞書「賤しかりける家に、蔦の紅葉のおもしろかりけるを見て」
 詞書から、粗末な家に蔦の紅葉が趣深くかかっているのを見て詠んだ歌であることがわかる。身分の低い者の粗末な住まいであるのに、蔦の紅葉を軒にまで這わせていて、思いもかけず風情のある住まいである、と詠む。粗末な家と美しい紅葉との取り合わせに、意外な趣を見いだしている。
 本巻の第三百四十七首では、賤の伏屋と見下して月の漏る趣も知らずに過ぎたことを悔やんでいた。この歌はその反省を生かすかのように、賤の住まいに思いがけない風情を見いだしており、二首が呼応している。

 初句「思はずに」は、思いもかけず、意外にも、の意である。
 二句「よしある賤の」の「よし」は風情、趣の意で、「賤」は身分の低い者をいう。風情のある賤の者の、の意である。
 三句「住処かな」は、住まいであることよ、の意で、「かな」は詠嘆である。ここで句切れとなる三句切れの歌である。
 四句「蔦の紅葉を」は、紅葉した蔦を、の意である。
 結句「軒に這はせて」の「せ」は使役の助動詞で、軒にまで這わせて、の意である。三句の風情の理由を倒置で後に示している。

よし:風情、趣、由緒
しづ:身分の低い者
作者
西行
出典
山家集
前の歌
錦張る秋の梢を見せぬかな 隔つる事の闇を作りて
次の歌
常盤なる松の緑に神さびて 紅葉ぞ秋は朱の玉垣