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訪へな君夕暮れになる庭の雪を
跡なきよりはあはれならまし

歌の意味
訪ねてきてほしい、あなた。夕暮れになっていく庭の雪も、足跡のないままよりは、あなたの足跡がついたほうがきっと趣深いだろう。
鑑賞
冬歌 543

詞書は前の歌に続き「雪歌詠みけるに」
 雪の歌を詠んだ折の六首のうちの六首目である。夕暮れになっていく庭の雪を、誰の足跡もないままにしておくよりは、あなたが訪ねてきて足跡を付けたほうが、きっとしみじみと趣深いだろうから、どうか訪ねてきてほしい、と呼びかける歌である。
 本巻の第五百三十二首と第五百三十三首が、訪れる人の足跡で庭の雪が乱れることを惜しんだのに対し、この歌は人の足跡のついた雪のほうを趣深いとして訪れを求めており、雪の足跡を惜しむ心と望む心とが反転した対応をなしている。

 初句「訪へな君」の「訪へ」は「訪ふ」の命令形、「な」は詠嘆の終助詞で、訪ねてきてほしい、あなたよ、の意である。ここで句切れとなる初句切れの歌である。
 二句「夕暮れになる」は、夕暮れになっていく、の意である。
 三句「庭の雪を」は六音の字余りで、夕暮れの庭に積もった雪を、の意である。
 四句「跡なきよりは」は、足跡のないままよりは、の意で、比較を示している。
 結句「あはれならまし」の「まし」は反実仮想の助動詞で、もしあなたが訪ねてきたなら、きっと趣深いだろうに、の意である。

とふ:訪ねる、見舞う
あと:足跡
作者
西行
出典
山家集
前の歌
折ならぬ巡りの垣の卯の花を うれしく雪の咲かせつるかな
次の歌
瀬戸渡る棚無し小舟心せよ 霰乱るるしまき横切る