わりなしや氷る筧の水ゆゑに
思ひ捨ててし春の待たるる
- 歌の意味
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どうにもならないことだ。凍った筧の水のために、思い捨てたはずの春が、自然と待たれることよ。
- 鑑賞
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冬歌 571
詞書「世を遁れて鞍馬の奥に侍りけるに、筧氷りて水まうで来ざりけり、春になるまでかく侍るなりと申しけるを聞きて詠める」
詞書から、出家して鞍馬の奥に住んでいた折、筧が凍って水が流れて来なくなり、春になるまでずっとこのままである、と言われたのを聞いて詠んだ歌であることがわかる。世を捨てた身として、季節の移りへの思いも捨てたはずなのに、凍った筧の水のために、春の訪れが自然と待たれてしまう、と詠む。暮らしの不便から春を待つ心の起こることを、どうにもならないこととして自嘲をこめて詠んでいる。
本巻の第五百十六首が、寒い旅寝の床で有明の月の光を「待たるる」と詠んだのと同じく、この歌も自発の「待たるる」で結び、冬の寒さのために自然と何かを待つ心を詠んでいる。
初句「わりなしや」の「わりなし」は、道理に合わない、どうにもならない、の意で、「や」は詠嘆である。ここで句切れとなる初句切れの歌である。
二句「氷る筧の」の「筧」は、竹や木をかけ渡して水を引く樋である。
三句「水ゆゑに」の「ゆゑに」は、〜のために、の意で、理由を示している。
四句「思ひ捨ててし」の「思ひ捨つ」は、執着を捨てる、の意で、「てし」は完了と過去の助動詞である。出家して思い捨てたはずの、の意である。
結句「春の待たるる」の「るる」は自発の助動詞「る」の連体形で、自然と待たれる、の意である。連体形で結んで余情を残している。
よをのがる:俗世を離れて出家する
かけひ:竹や木をかけ渡して水を引く樋
まうでく:「来」をへりくだっていう語
おもひすつ:執着を捨てる、思いを断つ
- 作者
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西行
- 出典
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山家集
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年のうちは訪ふ人さらにあらじかし 雪も山路も深き住処を
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常よりも心細くぞ思ほゆる 旅の空にて年の暮れぬる