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重ねてはこひえまほしき移り香を
花橘に今朝たぐへつつ

歌の意味
もう一度重ねて乞い受けたいと思うあの人の移り香を、今朝は花橘の香りになぞらえながら偲んでいる。
鑑賞
恋歌 587

詞書「後朝花橘」
 題「後朝花橘」は、後朝の別れに花橘を取り合わせた題である。別れて帰る朝、自分の衣に残るあの人の移り香を、もう一度重ねて身に受けたいと思いながら、花橘の香りにそれを重ねて偲ぶ、と詠む。花橘の香りは昔の人の袖の香を思い出させるものとされており、その伝統を後朝の別れの名残に生かしている。

 初句「重ねては」は、もう一度重ねて、の意で、衣を重ねて共寝したことを思わせる。
 二句「こひえまほしき」は、乞い受けたい、の意で、「まほし」は願望の助動詞である。
 三句「移り香を」の「移り香」は、衣などに移り残った香りのことで、共寝した恋人の香りをいう。
 四句「花橘に」の「花橘」は橘の花で、昔の人の袖の香を思い出させるものとされる。題の「花橘」に当たる。
 結句「今朝たぐへつつ」の「たぐふ」は、なぞらえる、並べる、の意で、「つつ」は反復継続を表し、言いさしの形で余情を残して結ぶ。題の「後朝」に当たる。

うつりが:衣などに移り残った香り
はなたちばな:橘の花、昔の人の袖の香を思わせるものとされる
たぐふ:並べる、なぞらえる
作者
西行
出典
山家集
前の歌
さらぬだに帰りやられぬしののめに 添へて語らふ郭公かな
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やすらはん大方の夜は明けぬとも 闇とか言へる霧にこもりて