行きずりに一枝折りし梅が香の
深くも袖に染みにけるかな
- 歌の意味
-
通りすがりにひと枝折った梅の香りが、なんと深く袖に染みついてしまったことか。
- 鑑賞
-
恋歌 596
詞書は前の歌に続き「寄梅恋」
通りすがりに何気なくひと枝折っただけの梅の香りが、思いがけず深く袖に染みついてしまった、と詠む。かりそめの出会いのつもりであった恋が、深く心に染みついて忘れられなくなったことを、梅の香りに託している。
前歌が折り取りたいと願う心を詠んだのに対し、この歌は折った後に香りが袖に深く残ることを詠み、恋の前と後とを梅の香によって対にしている。
初句「行きずりに」は、通りすがりに、の意で、かりそめの出会いを示している。
二句「一枝折りし」は、ひと枝折った、の意で、前歌の「折らばや」の願いが遂げられたことを示している。
三句「梅が香の」は、梅の香りが、の意である。題の「梅」に当たる。
四句「深くも袖に」は、深く袖に、の意で、初句の「行きずり」の軽さと対照をなしている。
結句「染みにけるかな」の「けるかな」は詠嘆で、染みついてしまったことだ、と思いがけない深さに驚いて結ぶ。
ゆきずり:通りすがり
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
折らばやと何思はまし梅の花 なつかしからぬ匂ひなりせば
- 次の歌
-
つれもなき人に見せばや桜花 風に従ふ心弱さを