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一方に乱るともなき我が恋や
風定まらぬ野辺の刈萱

歌の意味
ひとつの方向に乱れるというのでもない私の恋であることよ。吹く向きの定まらない風になびく野辺の刈萱のように。
鑑賞
恋歌 603

詞書「寄刈萱恋」
 題「寄刈萱恋」は、刈萱に寄せて恋を詠む題である。吹く向きの定まらない風に、野辺の刈萱が四方八方に乱れなびくように、自分の恋心もひとつの方向にではなく、あらゆる方向に乱れている、と詠む。「乱る」は刈萱の縁語で、恋に思い乱れるさまを刈萱の姿に重ねている。

 初句「一方に」は、ひとつの方向に、の意である。
 二句「乱るともなき」は、乱れるというのでもない、の意で、ひとつの方向にではなく四方に乱れることをいう。「乱る」は刈萱の縁語である。
 三句「我が恋や」の「や」は詠嘆で、私の恋であることよ、の意である。ここで句切れとなる三句切れの歌である。
 四句「風定まらぬ」は、風の吹く向きが定まらない、の意である。
 結句「野辺の刈萱」の「刈萱」は秋の野に生える草で、風になびき乱れるものとして詠まれる。体言止めで、恋のさまを刈萱の姿に託して結ぶ。題の「刈萱」に当たる。

かるかや:秋の野に生えるイネ科の草
ひとかた:ひとつの方向
作者
西行
出典
山家集
前の歌
妻恋ひて人目つつまぬ鹿の音も うらやむ袖のみさをなるかは
次の歌
夕霧の隔てなくこそ思ほゆれ 隠れて君が逢はぬなりけり