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弓張の月にはづれて見し影の
やさしかりしはいつか忘れん

歌の意味
弓張月の光から外れた物陰で見たあの人の姿の、優美であったことは、いつ忘れようか、決して忘れはしない。
鑑賞
恋歌 620

詞書は前の歌に続き「月」
 弓張月の光の届かない物陰でほのかに見た恋しい人の姿が、優美で心ひかれるものであったことを、いつまでも忘れはしない、と詠む。月の光の当たらないところで見た姿であるからこそ、いっそう印象深く心に残っている。「弓張」と「はづれ」は、弓と矢の外れることとを結んだ縁語の関係にある。

 初句「弓張の」の「弓張」は、弓に弦を張った形に見える上弦や下弦の月のことである。
 二句「月にはづれて」は、月の光から外れて、の意で、光の当たらない物陰をいう。「はづる」は弓張の縁語である。
 三句「見し影の」の「影」は姿のことで、物陰でほのかに見た恋人の姿をいう。
 四句「やさしかりしは」の「やさし」は、優美だ、上品で美しい、の意である。
 結句「いつか忘れん」は、いつ忘れようか、決して忘れはしない、の意で、「か」は反語を表し、「ん」と呼応して結ぶ。

ゆみはり:弓に弦を張った形に見える上弦や下弦の月
やさし:優美だ、上品で美しい
作者
西行
出典
山家集
前の歌
月見ればいでやと世のみ思ほえて 持たりにくくもなる心かな
次の歌
面影の忘らるまじき別れかな 名残を人の月にとどめて