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嘆けとて月やは物を思はする
かこち顔なるわが涙かな

歌の意味
嘆けといって、月が私に物思いをさせるのだろうか、いやそうではない。それなのに、月のせいだと言わんばかりの顔つきで流れる私の涙であることよ。
鑑賞
恋歌 628

詞書は前の歌に続き「月」
 月が嘆けといって物思いをさせるわけではない。本当は恋のつらさゆえの涙であるのに、まるで月のせいだと言わんばかりに流れてくる私の涙であることよ、と詠む。恋の涙を月に託けてしまう心の動きを、涙を擬人化した「かこち顔」の語で鮮やかに捉えている。
 千載集の恋歌五に収められ、のちに小倉百人一首にも採られて、西行の代表的な恋の歌として広く知られている。

 初句「嘆けとて」は、嘆けといって、の意である。
 二句「月やは物を」の「やは」は反語を表す係助詞で、三句の連体形「する」と係り結びをなしている。題の「月」に当たる。
 三句「思はする」の「する」は使役の助動詞「す」の連体形で、物思いをさせるだろうか、いやさせはしない、の意である。ここで句切れとなる三句切れの歌である。
 四句「かこち顔なる」の「かこち顔」は、他のせいにして恨みがましい顔つきのことで、涙を擬人化している。
 結句「わが涙かな」の「かな」は詠嘆の終助詞で、月のせいにして流れる涙を嘆いて結ぶ。

かこちがほ:他のせいにして恨みがましい顔つき
作者
西行
出典
山家集
前の歌
あしひきの山のあなたに君住まば 入るとも月を惜しまざらまし
次の歌
君にいかで月に争ふほどばかり めぐり逢ひつつ影を並べん