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さることのあるなりけりと思ひ出でて
忍ぶ心を忍べとぞ思ふ

歌の意味
そのようなこともあったのだなあと思い出しては、あの人を偲ぶ心を、人に知られぬよう忍んでおけと思う。
鑑賞
恋歌 684

詞書は前の歌に続き「恋」
 二人の間にそのようなこともあったのだなあと思い出すにつけ、恋しく偲ぶ心がわき上がるが、その心を人目に知られぬよう、じっと忍んでおけと自らに言い聞かせる、と詠む。慕う意の「忍ぶ」と、こらえて隠す意の「忍ぶ」とを重ねて、思い出に揺れる心と、それを抑えようとする心とを表している。

 初句「さることの」は、そのようなことが、の意で、二人の間にあった出来事をいう。
 二句「あるなりけりと」の「なりけり」は気づきの詠嘆で、あったのだなあと、の意である。
 三句「思ひ出でて」は、思い出して、の意で、六音の字余りとなっている。
 四句「忍ぶ心を」の「忍ぶ」は、恋しく慕う、偲ぶ、の意である。
 結句「忍べとぞ思ふ」の「忍ぶ」は、こらえて人目に隠す、の意で、四句の「忍ぶ」と異なる意で重ねている。係助詞「ぞ」が連体形「思ふ」と係り結びをなしている。

しのぶ:恋しく慕う意と、こらえて人目に隠す意がある
作者
西行
出典
山家集
前の歌
日に添へてうらみはいとど大海の ゆたかなりける我が思ひかな
次の歌
今日ぞ知る思ひ出でよと契りしは 忘れんとての情けなりけり