- 歌の意味
-
涙の川が逆巻いて流れる水脈の底が深いので、水がみなぎりあふれきることもない、私の心であることよ。
- 鑑賞
-
恋歌 692
詞書は前の歌に続き「恋」
涙の川が逆巻いて流れる水脈は底が深いので、水が表にみなぎりあふれ出ることもない。そのように、激しく渦巻く思いを心の底深くに抱えたまま、外にあふれさせることもできない自分の心である、と詠むものと解される。「みを」に水脈と身をとを掛け、激しい思いと、それを表に出せない忍ぶ恋とを、川の深さによって表している。
初句「涙川」は、涙が多く流れるさまを川にたとえた語である。
二句「逆巻くみをの」の「逆巻く」は、水が渦を巻いて逆流する、の意で、「みを」は、川の水脈の意と、わが身をの意とを掛けた掛詞である。
三句「底深み」の「み」は原因や理由を表す接尾語で、底が深いので、の意である。
四句「みなぎりあへぬ」の「みなぎる」は、水が満ちあふれる、の意で、「あへぬ」は、しきれない、の意である。あふれきることもない、と解される。
結句「我が心かな」の「かな」は詠嘆の終助詞で、そのような自分の心を嘆いて結ぶ。
なみだがは:涙が多く流れるさまを川にたとえた語
みを:川の水脈の意と、わが身をの意を掛ける
さかまく:水が渦を巻いて逆流する
みなぎる:水が満ちあふれる
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
煙立つ富士におもひのあらそひて よだけき恋をするがへぞ行く
- 次の歌
-
磯の間に波荒げなる折々は うらみをかづく里の海人