恋ひらるる憂き名を人に立てじとて
忍ぶわりなき我が袂かな
- 歌の意味
-
私に恋い慕われているというつらい噂をあの人に立てまいとして、涙を忍び隠すのがどうにもならない私の袂であることよ。
- 鑑賞
-
恋歌 702
詞書は前の歌に続き「恋」
自分が恋い慕っていることが知られれば、あの人にまでつらい噂が立ってしまう。それを避けようとして涙を忍び隠すけれども、袂の涙はどうにも隠しきれない、と詠む。自分のためではなく相手のために恋を隠そうとする思いやりと、それでもあふれる涙とを表している。
初句「恋ひらるる」の「らるる」は受身の助動詞で、私に恋い慕われる、の意である。
二句「憂き名を人に」の「憂き名」は、つらい評判、噂のことで、「人」は恋の相手である。
三句「立てじとて」の「じ」は打消の意志で、噂を立てるまいとして、の意である。
四句「忍ぶわりなき」の「わりなし」は、どうにもならない、の意で、忍び隠すことがどうにもならない、ということである。
結句「我が袂かな」の「かな」は詠嘆の終助詞で、涙に濡れる袂を嘆いて結ぶ。
うきな:つらい評判、噂
わりなし:どうにもならない
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
さはと言ひて衣返してうち臥せど 目の合はばやは夢も見るべき
- 次の歌
-
夏草の繁りのみゆく思ひかな 待たるるあきのあはれ知られて