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情けありし昔のみなほ偲ばれて
長らへまうき世にもあるかな

歌の意味
人の情けがあった昔ばかりがいっそう偲ばれて、生き長らえるのも気が進まない世の中に、それでも生きていることだ。
鑑賞
雑歌 713

詞書は前の歌に続き「雑」
 人の情けがあった昔ばかりがいっそう偲ばれ、生き長らえたいとも思わないこの世に、それでも生きている、と詠む。昔を慕う心と、今の世をつらく思う心とが重ねられている。

 初句「情けありし」は、人の情けがあった、の意で、「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。初句は六音の字余りである。
 二句「昔のみなほ」の「のみ」は限定の副助詞で、昔ばかりが、の意である。「なほ」は、いっそう、の意である。
 三句「偲ばれて」の「れ」は自発の助動詞で、自然と偲ばれて、の意である。
 四句「長らへまうき」は、生き長らえることが気の進まない、の意である。
 結句「世にもあるかな」は、そういう世に生きていることだ、の意で、「かな」の詠嘆で結ぶ。

ながらふ:生き長らえる
作者
西行
出典
山家集
前の歌
つくづくと物を思ふにうち添へて 折あはれなる鐘の音かな
次の歌
軒近き花橘に袖しめて 昔を偲ぶ涙包まん