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軒近き花橘に袖しめて
昔を偲ぶ涙包まん

歌の意味
軒近くに咲く花橘の香を袖にしみこませて、昔を偲んで流す涙を、その袖に包もう。
鑑賞
雑歌 714

詞書は前の歌に続き「雑」
 軒近くの花橘の香を袖にしみこませ、昔を偲ぶ涙をその袖に包もう、と詠む。花橘の香は昔を思い出させるものとされ、その香を移した袖で懐旧の涙を包むという趣向である。
 花橘の香と昔とを結びつけるのは、古今和歌集のよみ人しらずの歌「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」による伝統で、この歌もそれを踏まえている。

 初句「軒近き」は、軒に近い、の意で、花橘が家のすぐそばに咲いていることを示す。
 二句「花橘に」の「花橘」は、橘の花のことで、昔を思い出させる香をもつ花として詠まれる。
 三句「袖しめて」は、袖に香をしみこませて、の意である。
 四句「昔を偲ぶ」は、過ぎた昔を懐かしく思う、の意である。前歌の「昔のみなほ偲ばれて」と同じく昔を偲ぶ心を詠んでいる。
 結句「涙包まん」の「ん」は意志の助動詞で、涙を袖に包もう、の意である。

はなたちばな:橘の花、昔を思い出させる香の花とされる
しむ:香などをしみこませる
作者
西行
出典
山家集
前の歌
情けありし昔のみなほ偲ばれて 長らへまうき世にもあるかな
次の歌
何事も昔を聞くは情けありて ゆゑあるさまに偲ばるるかな