問はばやと思ひ寄らでぞ嘆かまし
昔ながらの我が身なりせば
- 歌の意味
-
もし昔のままの在俗のわが身であったならば、ご供養申し上げたいと思いつくこともなく、ただ嘆いていたことであろう。
- 鑑賞
-
雑歌 784
詞書「納めまゐらせて後、御供に候はれける人々、たとへん方なく悲しながら、限りある事なれば帰られにけり、始めたることありて、明くるまで候ひてよめる」
鳥羽院の遺骸を納め申し上げた後、お供をしていた人々はたとえようもなく悲しみながらも、定めのあることなので帰っていった。西行は、始めた勤めがあって、夜が明けるまでそこに控えて詠んだ歌である。昔のままの在俗の身であったなら、ご供養をしようと思いつくこともなく、ただ嘆くばかりだっただろう、と詠む。出家の身であるからこそ、夜明けまで院の菩提を弔うことができたという思いがこもっている。
初句「問はばやと」の「問ふ」は、弔う、供養する、の意で、「ばや」は願望の終助詞である。
二句「思ひ寄らでぞ」の「で」は打消の接続助詞で、思いつかないで、の意である。「ぞ」は係助詞で、三句の「まし」と係り結びをなしている。
三句「嘆かまし」の「まし」は反実仮想の助動詞で、嘆いていただろう、の意である。ここで句切れとなる。
四句「昔ながらの」は、昔のままの、の意で、出家する前の北面の武士であった頃をいう。
結句「我が身なりせば」の「せば」は反実仮想の仮定で、わが身であったならば、と倒置によって三句を受けて結ぶ。
とふ:弔う、供養する
- 作者
-
西行
- 出典
-
山家集
- 前の歌
-
道変はる御幸悲しき今宵かな 限りの旅と見るにつけても
- 次の歌
-
重ね着る藤の衣をたよりにて 心の色を染めよとぞ思ふ