古典和歌stream

思ひ出づる情けを人の同じくは
その折訪へな嬉しからまし

歌の意味
思い出して見舞ってくれるその情けを、同じことならば、あの悲しみの折に訪ねてほしかった。そうであればどんなに嬉しかったことか。
鑑賞
雑歌 789

詞書「母亡くなりて山里に籠り居たりける人を、程経て思ひ出でて人の訪ひたりければ、代はりて」
 母を亡くして山里に籠もっていた人のもとへ、しばらくたってから思い出したように別の人が見舞いに来たので、籠もっていた人に代わって西行が詠んだ歌である。思い出して見舞ってくれる情けは、同じことならあの悲しみの折に示してほしかった、そうすればどんなに嬉しかっただろう、と詠む。遅れた見舞いへの、恨みを含んだ返事である。

 初句「思ひ出づる」は、思い出してくれる、の意で、詞書の「程経て思ひ出でて」を受けている。
 二句「情けを人の」は、人の情けを、の意で、見舞ってくれた心をいう。
 三句「同じくは」は、同じことならば、の意である。
 四句「その折訪へな」は、悲しみのその折に訪ねてほしかった、の意である。
 結句「嬉しからまし」の「まし」は反実仮想の助動詞で、嬉しかったであろうに、と結ぶ。

とふ:訪ねる、見舞う
作者
西行
出典
山家集
前の歌
晴れやらぬ去年の時雨の上にまた かき暗さるる山めぐりかな
次の歌
限りなく悲しかりけり鳥辺山 亡きを送りて帰る心は