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いにしへはついゐし宿もあるものを
何をか今日のしるしにはせん

歌の意味
昔は周防内侍が膝をついて座っていた宿もあったものを、今日は何をそのしるしとすればよいのだろうか。
鑑賞
雑歌 799

詞書「周防内侍、我さへ軒の、と書きつけける古里にて、人々思ひを述べける」
 周防内侍が「我さへ軒の」と書きつけたという旧宅の跡で、人々がそれぞれ思いを述べた折の歌である。周防内侍は、住み慣れた家を手放す時に「住みわびて我さへ軒の忍ぶ草しのぶかたがた繁き宿かな」と柱に書きつけたと伝えられる。昔はその内侍が住んでいた家もあったのに、今は何をしのぶよすがにすればよいのか、と詠む。

 初句「いにしへは」は、昔は、の意である。
 二句「ついゐし宿も」の「ついゐる」は、膝をついて座る、の意で、周防内侍が住んでいた宿をいう。
 三句「あるものを」の「ものを」は逆接の接続助詞で、あったものを、の意である。
 四句「何をか今日の」の「か」は疑問の係助詞で、結句の「ん」と係り結びをなしている。
 結句「しるしにはせん」は、しるしにしようか、の意で、昔をしのぶよすがのないことを嘆いて結ぶ。

ついゐる:膝をついて座る、かしこまって座る
しるし:証拠、よすが
作者
西行
出典
山家集
前の歌
色深き梢を見ても時雨れつつ ふりにしことをかけぬ日ぞなき
次の歌
朽ちもせねその名ばかりを留め置きて 枯野の薄形見にぞ見る