朽ちもせねその名ばかりを留め置きて
枯野の薄形見にぞ見る
- 歌の意味
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朽ちることのないその名だけをこの世に留め置いて、枯れ野の薄を、その人の形見として見ることだ。
- 鑑賞
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雑歌 800
詞書「陸奥国にまかりたりけるに、野の中に常よりもとおしき塚の見えけるを、人に問ひければ、中将の御墓と申すはこれが事なりと申しければ、中将とは誰が事ぞと、又問ひければ、実方の御事なりと申しける、いと悲しかりけり、さらぬだにものあはれに覚えけるに、霜枯れの薄ほのぼの見えわたりて、後に語らんも言葉なきやうに覚えて」
陸奥国を旅したとき、野中に目立つ塚が見えたので土地の人に尋ねると、中将の御墓というのはこれのことだと答えた。中将とは誰のことかとさらに尋ねると、藤原実方のことだという。実方は陸奥守として下り、その地で亡くなった歌人である。そうでなくても物悲しく感じていたところに、霜枯れの薄がほのかに一面に見え渡り、のちに人に語ろうにも言葉がないように思われて詠んだ歌である。朽ちることのない名だけを残して、実方は枯れ野の薄を形見としている、と詠む。
新古今和歌集の哀傷歌に収められ、西行の陸奥の旅を伝える歌として知られる。
初句「朽ちもせね」は、読み仮名の行では「くちもせぬ」とあるが、本文の表記に従う。朽ちることのない、の意に解する。
二句「その名ばかりを」の「その名」は実方の名をいい、「ばかり」は限定で、名だけを、の意である。
三句「留め置きて」は、この世に留めておいて、の意で、六音の字余りである。
四句「枯野の薄」は、詞書の「霜枯れの薄」を受けており、初句の「朽ちもせね」名と、枯れてゆく薄とが対比されている。
結句「形見にぞ見る」は、係助詞「ぞ」と連体形「見る」による係り結びで、形見として見ることだ、と結ぶ。
かたみ:思い出のよすがとなるもの
- 作者
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西行
- 出典
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山家集
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いにしへはついゐし宿もあるものを 何をか今日のしるしにはせん
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住み捨てしその古里を改めて 昔に帰る心地もやする